セノリティクス(Senolytics)とは

セノリティクスとは、「老化(senescence)」と「破壊・除去(lytics)」を組み合わせた造語です。老化細胞だけを選択的に死滅させる治療薬や化合物の総称です。

老化細胞(Senescent Cells)とは、「細胞周期を永久に停止したが、死なずに体内にとどまっている細胞」です。これは細胞老化(cellular senescence)と呼ばれます。別名「ゾンビ細胞」。これらの細胞は正常な細胞と異なり、周囲の健康な細胞に悪影響を及ぼす物質を放出します(SASP)。これにより、組織の機能が低下し老化の症状が進行します。ゾンビ細胞は、特に慢性炎症を引き起こし、組織の機能低下を促進します。さらに、老化細胞の蓄積は、がんや心血管疾患、神経変性疾患など、様々な老化関連疾患のリスクを高めます。

これらの細胞は、免疫系の働きを低下させることで、感染症への抵抗力も弱まる可能性があります。老化細胞は、慢性的な炎症を引き起こし組織の機能低下を促進します。また、老化細胞は自己修復能力を失い、健康な細胞の正常な機能を妨げる物質を分泌します。この結果、皮膚のたるみやしわ、内臓の機能低下、筋力の減少など、老化の症状が顕著になります。さらに、老化細胞の蓄積は、がんや心血管疾患、神経変性疾患など、様々な老化関連疾患のリスクを高めます。老化細胞が放出する炎症性サイトカインは、周囲の細胞にも悪影響を及ぼし、がんの発生や進行を促進する可能性があります。

体細胞中の老化細胞の割合(推定)
・0〜20歳 :0.1〜1.0%
・20〜40歳:1〜3%
・40〜60歳:5〜10%
・60歳以上で:10〜15%
※マウスの実験では老化細胞の割合が2〜4%でも周囲の組織に顕著な悪い影響があることが解っています。

リポ化ダサチニブ+リポ化ケルセチン点滴

〜時代は足し算のアンチエイジングから引き算のリバースエイジングへ〜

セノリティクス として使用される成分にはいろいろありますが、ダサチニブとケルセチンの組み合わせが最も歴史があり、経口投与の研究や文献、エビデンスがあります。

今回、私たちは大学のベンチャー企業と提携して、脂溶性で点滴できなかったケルセチンと、抗がん剤でもあるダサチニブを、それぞれ適切な形状にリポ化することに成功(特許出願中)しました。正常細胞には作用せず、副作用の少ない、安全な形で老化細胞のみに作用するセノリティクス点滴を開発しました。その薬剤活性を損なわない為に当院では−80度のDeep freezerにて保管しています。また、治験を重ね、ダサチニブの副作用を最小限に減らす方法、適切な投与量、投与間隔、投与頻度についても経験より解ってきました。

変形性膝関節症、頚部、腰部椎間板ヘルニア、各関節痛、全身倦怠などの症状には1回目の点滴後から体感がある患者さまが多く、個人の差こそあれ劇的な症状の改善が見られます。

また、治療前後にてIL-6, IL-8, TNFαなどのSASPを測定していますが、ほとんどの症例で治療にてSASPが減少していきます。

将来的には様々な種類のセノリティクスを組みあわせて健康寿命120歳を目指します。

<ダサチニブ+ケルセチンのセノリティクス 作用の機序>

ダサチニブ(Dasatinib)の作用機序

ダサチニブはチロシンキナーゼ阻害剤(SRC / BCR-ABL / PDGFR)です。

【老化細胞への作用】
• 老化細胞で亢進している SRC/ABL依存シグナルを遮断
• PI3K/AKT 経路低下 → アポトーシス誘導
• 特に 脂肪前駆細胞(preadipocytes)や老化線維芽細胞に効果
• BCL-xL依存性の細胞を除去しやすい

ケルセチン(Quercetin)の作用機序

植物由来フラボノイド、抗酸化・抗炎症・キナーゼ阻害

【老化細胞への作用】
• PI3K/AKT/mTOR 阻害 → 代謝ストレス増加 → アポトーシス誘導
• BCL-2 family(抗アポトーシスタンパク)の抑制
• SASP(IL-6, TNF-α など炎症分泌)抑制作用も持つ
• 特に 老化内皮細胞・老化造血細胞・マクロファージ系に効果あり

ダサチニブ とケルセチン(D+Q)の相乗効果

作用標的が異なるため、老化細胞タイプ別に補完しあう

老化細胞タイプ 有効薬剤
脂肪前駆細胞 ダサチニブ◎ / ケルセチン○
血管内皮細胞 ケルセチン◎ / ダサチニブ○
老化免疫細胞 ケルセチン◎
老化線維芽細胞 両方◎

【論文で示されている効果】
• D+Q投与により老化細胞を30〜70%除去
• 老化マウスでは寿命延長(中央値+36%)
• ヒト臨床(特発性肺線維症、糖尿病腎症)でも安全性と生物学的効果が確認されている。

D+Q セノリティクスで効果が期待される主な疾患・病態

D+Q のエビデンスはまだ臨床初期段階ですが、多くの疾患で「老化細胞(Senescent cells)」が病態に関わることが明らかになっており、その除去による改善が期待されています。

① 呼吸器系:特発性肺線維症(IPF)
・Mayo Clinic の臨床試験(Pilot Study)で、D+Q 投与により歩行速度・歩行距離・体力指標が改善。
・老化線維芽細胞が IPF の進行に関わることが確立。
(臨床的に最も証拠が強い分野)

② 心血管系疾患
● 動脈硬化
・老化内皮細胞・老化平滑筋がプラーク形成、炎症を促進。
・D+Q がマウスモデルでプラーク負荷を減少。
● 心不全(HFpEF)
・2022・2024年の研究で、老化細胞が心筋硬化・拡張不全に関与。
・D+Q が心筋炎症と線維化を改善(前臨床)。

③ 糖尿病・代謝疾患
● 2型糖尿病(T2DM)
・膵β細胞の老化がインスリン分泌低下を引き起こす。
・セノリティクスでβ細胞の機能改善が示唆。
● インスリン抵抗性・肥満
・老化脂肪細胞が炎症性サイトカイン(SASP)を分泌。
・D+Q が脂肪組織の炎症を改善。

④ 腎臓系疾患
● 慢性腎臓病(CKD)
・老化した尿細管細胞や糸球体細胞が CKD の進行に強く関与。
・マウスで D+Q が腎線維化や腎機能を改善。

⑤ 骨・関節疾患
● 変形性関節症(OA)
・老化軟骨細胞が SASP を分泌し軟骨破壊を促進。
・D+Q で軟骨細胞の若返り効果(ヒト OA 細胞で ex vivo 証拠あり)
● 骨粗鬆症
・骨形成細胞・骨芽細胞の老化が関与。
・D+Q で骨密度改善(動物)。

⑥ 神経変性疾患
● アルツハイマー病(AD)
・老化アストロサイト・ミクログリアが炎症を増強。
・D+Q 投与で、アミロイド・タウの蓄積抑制と記憶改善が動物モデルで確認された。
● 脳血管性認知症
・脳血管老化の改善が示唆。

⑦ 免疫老化(Immunosenescence)
・老化免疫細胞が慢性炎症(Inflammaging)を引き起こす。
・D+Q が老化T細胞数を減らし免疫機能改善した。

⑧ 肝疾患
● 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
・老化肝細胞が線維化を促進する。
・D+Q で肝線維化の減少あり(動物例)。

⑨ 皮膚・毛髪の老化
・老化真皮線維芽細胞の SASP がコラーゲン減少に関与している。
・D+Q で ECM(細胞外マトリクス)が改善した。

⑩ 血液疾患
● 骨髄線維症(加齢関連)
・老化造血幹細胞が関与している。
・D+Q で線維化改善の動物データあり。

⑪ 放射線障害・化学療法後障害
・放射線・抗がん剤により老化細胞が大量に生じる。
・D+Q で疲労改善、組織修復促進、線維化抑制の報告(動物)あり。

⑫ フレイル(加齢脆弱性)
・老化細胞が全身炎症や筋力低下に関与している。
・D+Q で体力改善例あり(臨床試験)

【D+Q で特に臨床的に根拠が最も強い 3 病態】
1.特発性肺線維症(IPF)
2.フレイル(歩行指標改善)
3.糖尿病・腎疾患領域

リポ化ダサチニブ+リポ化ケルセチン点滴後の患者さまの体感

1.椎間板ヘルニアの腰痛が1回で消失した。(20代女性)(※D+Q 2回施行)
2.頸椎症の首の痛みが無くなった。(30代女性)(※D+Q 1回施行)
3.変形性膝関節症の膝関節痛と腰痛が消失した。(60代男性)(※D+Q4回施行)
4.肌の張りと艶が改善しトーンが明るくなった。(20代女性) (※D+Q3回施行)
5.強い膝の痛みが軽減した。(40代女性)(※D+Q2回施行)
6.両側の重傷の変形性膝関節症があり、歩行時の疼痛があり5年間毎週ヒアルロン酸を膝関節腔内に注射していたが、施術3回にて疼痛がほぼ消失した。(60代男性)(※D+Q4回施行)
7.慢性の頭皮の神経痛が改善した。(50代男性)(※D+Q1回施行)
8.倦怠感などが無くなり肌が明るくなった。(40代女性)(※D+Q2回施行)
9.サーファーの男性。外傷による肩関節痛、慢性腰痛、膝関節痛強いため、加療中であったが今回の治療で症状が軽快してサーフィンが痛みが伴わずに可能になった。(30代男性)(※D+Q3回施行)
10.原因不明の頭痛、ブレインフォグ、全身倦怠感があったが施術後は頭痛が消失して意識がクリアになり倦怠感もほぼ消失した。(40代男性)(※ D+Q2回施行)
11.変形性膝関節症と腰痛の痛みが消失した。(60代女性)(※D+Q1回施行)

ダサチニブの副作用について

ダサチニブはチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であり、慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ性白血病(ALL)の治療に用いられますが、老化細胞除去(Senolytics)では、ダサチニブは10〜20mg程度の低用量で使用しており、更に高度にリポ化しているため、正常な細胞には作用しないため、副作用は低頻度で軽度です。

・投与1回目当日の夕方から軽い頭痛が見られることがあります。

・投与1回目の夕方〜夜に37度前後の微熱が出ることがあります。

・1回目投与後2〜3日後に痒みのない発疹が四肢または顔に出ることがあります。

これらの反応は老化細胞除去による反応、もしくはダサチニブによる副作用の可能性があります。いずれも軽度の症状で予防可能です。

<当クリニックにおけるリポ化ダサチニブ+リポ化ケルセチン点滴の治療方法>
治療は原則一週間置きに3回施行します。(1セッション3回)
ただし疾病の治療目的の場合、効果が不充分の場合追加投与することがあります。
治療前に治療の内容について詳しくご説明いたします。
1.ダサチニブの副作用を消去するための抗酸化点滴(約15分)

2.リポ化ダサチニブ20mg+リポ化ケルセチン250mg(約30〜40分)
また、希望のある患者さまは採血にて治療前後のSASPを測定して結果をお知らせいたします。
治療費用についてはお問い合わせください。

■本治療で使用する医薬品は、日本国内にて製造しておりますが、未承認医薬品になり厚生労働省の認可を受けていません。国内では承認されていない医薬品を使用しておりますが、医師の責任において、安全性と有効性に十分配慮した上でご提供しております。海外では経口摂取にて医療現場で使用されている実績がございますが、点滴での治療は今回初めてとなります点をご了承下さい。


<文献:ヒト臨床試験(D+Qによるセノリティクス)>

(1) 糖尿病性腎症(初の組織学的証拠)

Hickson LTJ, et al.
Senolytics decrease senescent cells in humans: preliminary report from a clinical trial of Dasatinib plus Quercetin in individuals with diabetic kidney disease. EBioMedicine. 2019;47:446–456.

  • 糖尿病性腎症患者に 3週間(週3日×3週)の経口 D100mg + Q1250mg 間欠投与。
  • 皮下脂肪生検でp16Ink4a+老化細胞とSA-β-galが減少、SASP因子も低下。
  • 短期ながら身体機能指標(歩行速度など)も改善傾向。

(2) 特発性肺線維症(IPF)

Justice JN / Nambiar AM, et al.
Senolytics in idiopathic pulmonary fibrosis: results from a first-in-human, open-label, pilot study. EBioMedicine. 2019;40:554–563. lsom.uthscsa.edu+1

  • IPF患者にD+Qを間欠投与し、6分間歩行距離・歩行速度など身体機能が改善。安全性と実行可能性の証拠。

Nambiar AM, et al.
Senolytics dasatinib and quercetin in idiopathic pulmonary fibrosis: a randomized placebo-controlled pilot trial. EBioMedicine. 2023;90:104481. The Lancet+1

  • プラセボ対照のパイロットRCT。
  • 間欠D+Qは概ね忍容性良好で、一部の機能指標(歩行距離など)で改善を示すが、サンプルサイズが小さく確証的結論には至らず。

(3) アルツハイマー病・中枢神経領域

Gonzales MM, et al.
Outcomes from the first clinical trial of senolytic therapy for Alzheimer’s disease. EBioMedicine. 2023. PMC

  • 軽度〜中等度アルツハイマー病患者にD+Qを投与。
  • 主目的は血液脳関門通過性と安全性の評価で、D+Qが中枢へ到達すること、忍容性は概ね良好であることを示唆。
  • 認知機能改善はまだ限定的で、今後大規模試験が必要。

(4) メンタルヘルス(うつ病・統合失調症など)へ拡張中

Schweiger A, et al.
Protocol for a pilot clinical trial of the senolytic drug combination dasatinib plus quercetin in major depressive disorder and schizophrenia. F1000Research. 2025. f1000research.com+1

  • MDD・統合失調症患者でのパイロット臨床試験プロトコル。
  • D100mg + Q1250mgを週1回×4週(計4サイクル)などの間欠投与し、老化指標・認知機能・症状の変化を見るデザイン。