セノリティクス 耐性老化細胞とは?
「セノリティクスを投与しても 死なない老化細胞(resistant senescent cells)」──これは近年のセノリティクス研究で大きな問題とされている概念です。なぜ死なないのか/どの老化細胞が抵抗性を持つのか/どの経路が原因かを最新の知見でまとめます。
老化細胞はすべて同じではなく、「セノリティクスが効くタイプ」と「効かない(抵抗性を持つ)タイプ」が存在する。特に D+Q(ダサチニブ+ケルセチン)やフィセチンで除去されない老化細胞が多数知られています。
【1】なぜセノリティクスで死なない老化細胞がいるのか?
老化細胞は“死なない仕組み(SCAP=Senescent Cell Anti-Apoptotic Pathways)”を複数持っています。D+Q・Fisetin が抑えているSCAPはその一部であり、
別の経路を使って「生き残る」老化細胞が存在するからです。
【2】代表的な「死なない老化細胞」の分類
① FOXO4–p53 経路を利用するタイプ(D+Qが効きにくい)
老化細胞の核内で FOXO4 が p53 を拘束し、
アポトーシス(細胞死)が発動しないようにしている。
→ D+Qやフィセチンではこの経路は抑えられないため、
生存してしまう老化細胞が多い。
※ FOXO4-DRI ペプチドはこの経路に特化し、強力に効く。
② BCL-2/BCL-xL を強力に使うタイプ
BCLファミリーによって「細胞死のブレーキ」を強くかけている老化細胞。
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Navitoclax(ABT-263)はここを狙うが副作用(血小板減少)が強い
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D+Q や Fisetin はこの系には弱い
→ 脂肪組織・骨髄系の老化細胞に多い抵抗タイプ
③ PI3K/AKT を強く使う“メタボ系”老化細胞
肥満、糖尿病、脂肪細胞の老化では、
AKT → mTOR が持続活性化しており「死なない」メカニズムが固い。D+Q はPI3K阻害の一部をカバーするが完全ではないため、一部の代謝性老化細胞は生き残る。
④ p16陽性だがアポトーシス誘導感受性が極端に低い細胞
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関節軟骨(OA)
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皮膚線維芽細胞(深層)
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肝臓の一部の細胞
などは「老化しているのに死なない」代表例です。
⑤ 免疫回避型(Senescence Immune Evasive Cells)
本来は NK細胞やマクロファージが除去すべき老化細胞だが、
以下のように免疫から逃避するタイプがある:
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PD-L1 過剰発現
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MHC-I 過剰発現
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SASPが免疫抑制方向に働く
→ セノリティクスに加えて
**免疫活性化戦略(日和見型免疫チェックポイント)**が必要。
【3】なぜ「D+Qだけ」だと老化細胞が残るのか?
D+Q のターゲットは主に:
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D:SRC/ABL、PI3K、AKT系の一部
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Q:抗酸化系、Nrf2、BCL2系の一部弱抑制
しかし
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FOXO4–p53
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強力なBCL-2/BCL-xL依存
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PD-L1免疫逃避
などは ほぼ未カバー。
そのため“D+Q耐性老化細胞”が必ず一定割合残る。
【4】“死なない老化細胞”を除去する次世代アプローチ方法
① FOXO4–DRI(FOXO4–p53阻害ペプチド)
D+Qで死なない細胞に最も強い選択性
→ ネズミでは強力な若返り効果
② Navitoclax(ABT-263)
BCL-2/BCL-xLを抑える強力なセノリティック
→ D+QやFisetinが効かないタイプにも効くが
→ 血小板減少が重いため臨床利用は困難
③ mTOR阻害(Rapamycin/RAPA)
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直接セノリティクスではないが
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「老化細胞を弱らせ、感受性を上げる=Sensitizer」
D+QやFisetinの前処理で死なない老化細胞が死ぬ確率が高まる。
④ 免疫セノリティクス(NK活性化)
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NK細胞
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マクロファージ
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γδT細胞
これらを活性化すると “免疫回避型” 老化細胞も処理される。
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IL-15
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NK活性化サプリ(βグルカン等)
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運動
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温熱療法
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オゾン療法(NK刺激効果)
⑤ SASP阻害(セノモルフィックス)戦略
老化細胞を「静かな老化細胞=害の少ない形」に変える。
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カルダモン
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ケルセチン低用量
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EGCG
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メトホルミン
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5-ALA
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Resveratrol
除去ではなく、無害化方向へ変える。
つまり「セノリティクスの標的経路が1つでは不十分」
老化細胞は多様で、複数経路を使い“死なない戦略”を持っているためです。そのため今後の方向性は:
①複合セノリティクス(Multi-target)
②セノリティクス + mTOR調整
③セノリティクス + 免疫活性化
④セノセント細胞の表面マーカー特異的標的療法
へ移行すると予測されています。

