(31)メトホルミンのセノモルフィック作用

メトホルミンのセノモルフィック作用につては、既に様々な研究がされていて論文があります。メトホルミンと「老化細胞マーカー(p16、SA-β-gal、SASP因子)」に直接言及・測定している代表的論文を、マーカー別に整理しました。各項目にモデル(ヒト/動物/培養細胞)と主要所見を短く添えています。

p16(p16INK4a)

  1. Wang et al., 2024, J Neuroinflammation(アストロサイト)
    — メトホルミンでp16INK4a低下、SA-β-gal低下、SASP因子(IL-6, IL-1α/β, MMP3/9)抑制を報告(培養細胞・マウスモデル)。 BioMed Central+1

  2. Yang et al., 2023, Immunity & Ageing(ヒトT細胞)
    — 中年者PBMCを用いた実験で、CD8⁺“セネセントT細胞”頻度をメトホルミンが低下。SASP関連サイトカイン(IFN-γ、IL-6)の抑制も示唆。p16発現そのものはT細胞老化の既報マーカーとして位置付け。 PMC+1

  3. Wang et al., 2024 の総説的解釈
    — 上記論文の本文中にp16低下の定量記載(図・本文)あり。 BioMed Central

SA-β-gal(senescence-associated β-galactosidase)

  1. Park et al., 2022, Mutat Res(ヒト大動脈内皮細胞/放射線誘導老化)
    — IR誘導のSA-β-gal上昇をメトホルミンが抑制。DNA損傷修復(BARD1関連)を介した老化緩和を示唆。 sciencedirect.com+1

  2. Wang et al., 2024, J Neuroinflammation(アストロサイト)
    — 長期培養またはパーキンソン様モデルでのSA-β-gal活性をメトホルミンが低下。 BioMed Central

  3. Ye et al., 2023, Oxid Med Cell Longev(ヒト骨髄MSCのD-gal誘導老化)
    — 低濃度メトホルミンでROS低下、ミト機能改善、SA-β-gal陽性細胞の減少。 PMC

  4. Le Pelletier et al., 2021, eLife(ヒト脂肪由来間質細胞)
    — 加齢ドナーASCsの酸化ストレス・ミト機能障害・老化表現型(SA-β-galなど)をメトホルミンで改善。 eLife

SASP(IL-6、MMP類、IFN-γなど)

  1. Hu et al., 2020, Cell Death & Disease
    — メトホルミンはIL-6/STAT3軸を抑制し、SASP誘導“幹細胞様性”を阻害する“セノスタティック”作用を示す。 Nature

  2. Abdelgawad et al., 2023, Frontiers in Aging(ドキソルビシン誘導内皮老化)
    — DOX誘導老化でSASP分泌(IL-6など)をメトホルミンが軽減、LPS誘発の過炎症反応も抑制。フルテキストでSASP抑制の定量あり。 PMC+1

  3. Sugimoto et al., 2024, Oncol Rep(線維芽細胞の放射線誘導SASP)
    — 放射線でSASP化したCAFの分泌物が腫瘍促進的に働くが、メトホルミン添加でSASP分泌が低下し腫瘍進展抑制に寄与。図5–8で実験系を提示。 spandidos-publications.com+1

  4. Hansel et al., 2021, Int J Mol Sci/関連報告
    — 放射線性肺障害モデルで、SASP因子(Ccl2/Mcp1など)経路の抑制と組織保護効果。メトホルミンを含む介入で正常組織の“老化関連表現型”を軽減。 MDPI+1

  5. Wang et al., 2024, J Neuroinflammation(アストロサイト)
    — IL-6、IL-1α/β、MMP3/9の低下(SASP抑制)を再掲。 BioMed Central

  6. Yang et al., 2023, Immunity & Ageing(ヒトT細胞)
    — CD8⁺セネセントT細胞でIFN-γのMFI低下、リンパ球IL-6産生抑制など、免疫SASP様シグナルの抑制を示唆。 PMCつまりメトホルミンは、セノリティクスの様に老化細胞を消去する作用では無くSASPの様な老化誘発物質の作用を抑制する作用、セノモルフィックであることがわかります。人間に使用する投与量や期間、評価はまだまだこれからですが、SASPを測定しながら効果を評価していくことが重要です。臨床では、決して新薬では無いですが、この様な作用があることも、医師や患者さまに発信していくことも重要であると考えています。